コレット・ウシャール インタビュー

ベルギー在住のコレット・ウシャールさんは王立コンセルヴァトワールで教鞭をとり、数々のダンス公演・オペラ公演を手がけるなど、ヨーロッパの第一線で活躍する衣裳デザイナーです。京都の劇団「地点」との初仕事は4年前。柔道や合気道の道着を大胆にアレンジした真っ白な衣装は、その美しいフォルムとあいまって非常に印象的でした。その後も、ファストファッションのコラージュや着物を大胆にアレンジした衣裳など、地点とのコラボレーションは継続中です。

今回のPVでは、地点の俳優たちにコレットさんオリジナルの着方を提案してもらうというコンセプトのもと、撮影されました。撮影現場の片隅で、コレットさんに着物の魅力についてお聞きしました。

地点 『ヘッダ・ガブラー』(2017)

衣装デザイン:コレット・ウシャール

photo: Takuya Matsumi

Q. あなたにとってキモノの魅力とは何ですか?

A. まず第一に、私が普段使い慣れているヨーロッパのテキスタイルとは大きく異なる素材、色づかいですね。

Q. 今日は、普通ではないキモノの着方を試しました。どのような意図を持たれていたのでしょうか?

A. キモノでいちばん興味深いのは、キモノが平面の衣服であり、平面の生地でできているということ、衣服に形を与えるのが身体だということです。そう考えて、通常とは異なるキモノの着方を試してみました。キモノは私の文化ではありませんから、“正統な”着方も知りませんし。 私はキモノが好きですし、キモノに敬意をもっていますから、切ったりしたくありません。だから、あるがままの形でアレンジしたり、その形をいかして変形させたりする方法が好きなんです。

Q. 裏返しに着たりしましたが、日本人にとってはびっくりするような着方です。どういう意図があっての試みですか?

A. 内側も物語を語るからです。発見があるんです。キモノを見て、人は内側を見ようとはとは思いませんが、内側も同じくらい美しいし、外側とは異なる物語を語るのです。だから、一枚のキモノに二つの衣服があるということなんです。

地点『悪霊』(2014)

衣装デザイン:コレット・ウシャール

photo: Hisaki Matsumoto

Q. もうひとつ興味深かったのは、ベルトを上手く使っていらっしゃいました。どういった意図でベルトを使われましたか?

A.ベルトを使ったのは、現代的な一面を出すためです。素材のミックスですね。革のベルトと絹のミックス、また、革という素材とキモノの洗練されたモチーフとのミックスが興味深いと思ったんです。

Q. なぜキモノの着方を色々アレンジしてみたいと思ったのですか?

A. ヨーロッパの衣服とは逆に、平面で裁断されて、身体にまとわれた時に三次元になる衣服への興味からです。キモノ一枚一枚が私に語りかけてくるんです。一枚のキモノが、ひとつの衣服の型のインスピレーションを与えてくれます。私が一枚のキモノに対して何をするのか、私は予想できません。スカートにするのか、上半身にまとうのか、わかりません。インスピレーションを与えてくれるのは、キモノそれ自体なんです。

Q. キモノは昔の衣服ですが、これを現代に着る意味をどう考えますか?

A. キモノは生地、色が美しいですね。素材が美しいです。
残念なのは、日本の家庭にはたくさんキモノがあるのに、タンスにしまわれたままだという事です。こんなにたくさんの美がタンスに閉じ込められているのは残念でなりませんから、外に出してあげたいのです。新しい命、“息吹”を与えたいのです。

Q. HINAYA KYOTO STYLE + STAYで、たくさんの外国人、とりわけヨーロッパの方々がキモノをお買い上げ下さいます。なぜだと思われますか?

A. 美しいからでしょうね。生地として。衣服として。
キモノには、先ほどお話ししたような魅力がありますが、彼らがどのようにキモノを着るのかはわかりません。例えば、私が伝統的な着方でキモノを着るなんて考えられません。そういうやり方で、キモノを自分のものにすることはできません。
私が考案する着方はいたってシンプルですし、もっともっと他のアイデアがあると思います。

コレット・ウシャール Colette Huchard

1951年、フランス・グルノーブル生まれ。パリで服飾を学び、その後舞台衣裳を専門として1979年以降、ベルギー・ブリュッセルを拠点に、フランスやベルギーで活動している。ダンス作品やオペラ作品の衣裳を数多く手がけ、現在は衣裳デザイナーとして活躍する一方、ブリュッセルの王立コンセルヴァトワールで教鞭をとる。ベルギーのダンスカンパニーCompagnie Mossoux-Bontéや仏人演出家Jean- Claude Beruttiの演出するオペラ作品では長年に渡り衣裳を担当している。度々来日しており、2012年の京都滞在中に地点と出会い、これまでに『悪霊』(2014年)、『三人姉妹』(2015年)、『スポーツ劇』『ヘッダ・ガブラー』(2016年)、『忘れる日本人』『汝、気にすることなかれ』『どん底』(2017年)の衣裳を手がける。

地点 CHITEN

多様なテクストを用いて、言葉や身体、光・音、時間などさまざまな要素が重層的に関係する演劇独自の表現を生み出すために活動している。劇作家が演出を兼ねることが多い日本の現代演劇において、演出家が演出業に専念するスタイルが独特。 2005年、東京から京都へ移転。2006年に『るつぼ』でカイロ国際実験演劇祭ベスト・セノグラフィー賞を受賞。2007年より<地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演>に取り組み、第三作『桜の園』では代表の三浦基が文化庁芸術祭新人賞を受賞した。チェーホフ2本立て作品をモスクワ・メイエルホリドセンターで上演、また、2012年にはロンドン・グローブ座からの招聘で初のシェイクスピア作品を成功させるなど、海外公演も行う。2013年、本拠地京都にアトリエ「アンダースロー」をオープン。(法人名:合同会社地点)

http://chiten.org/
動画撮影・編集:松見拓也

1986年神戸市生まれ。写真家。京都精華大学デザイン学部を卒業後、フリーランスのデザイナー、カメラマンとして活動を開始。 2010年よりcontact Gonzoに加入。同年NAZEと共に犯罪ボーイズ/鏡世界社を結成。最近は夢と記憶を研究しつつ、紙片「bonna nezze kaartz」を刊行している。

http://qqiixiipp.hanzaiboyz.org/